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Vol.10

「アイデアがカタチになる仕事 ~学童保育所(キッズコミュニティ)の開設~

2023.02.01掲載

山下 武史

Yamashita Takeshi山下 武史

人事部職員育成課ダイバーシティ推進室
(男女共同参画担当・専門員)

住田 会美

Sumita Emi住田 会美

人事部職員育成課ダイバーシティ推進室
(男女共同参画担当・掛長)

所属・役職等は取材時のものです

ダイバーシティ推進室の業務内容って?

性別や障害の有無など、様々な違いや個性を持った教職員・学生が、京都大学で能力を発揮できる環境づくりのため、ダイバーシティ推進に関するイベントやプロジェクト等の企画・実施及び各種支援制度の運営を行っています。
今回は男女共同参画に係る取り組みの中で、学童保育所の開設についてインタビューを行いました!

早速ですが、学童保育所(キッズコミュニティ)の開設企画が始動した背景やきっかけについてお話しいただけますか。

山下

「京都大学男女共同参画推進アクションプラン(2022-2027年度)」に、学内保育施設の設置に向けた検討が盛り込まれ、京都大学周辺の保育所充足状況から、小学生を対象にした「学童保育所」に利用ニーズがあるのではということになりました。
これを確かめるために、全教職員・学生を対象にアンケートを行ったところ、約2,200件もの回答があり、予想以上に多くのニーズがあることがわかったため、学童保育所開設に向けた企画がスタートしました。

2,000件を超える反響とは驚きですね。具体的にどのような要望があったのでしょうか。

山下

平日の利用希望のほかに、民営や公設の学童保育所の多くが閉所している土日・祝日や子どもの夏休みなどの長期休暇中に、学内に学童保育所があれば利用したいという声が多く寄せられました。特に研究者は、土日・祝日も実験などの研究活動や学会、研究会等への参加もあり、その間に子どもを預かってほしいというニーズがあるのではと考えました。

住田

休日での開所は、京都大学の近所に住む教職員だけではなく、遠方に住む教職員へもサービスを提供できることがメリットだと思っています。

なるほど。その後、どのように企画を進めていかれたのでしょうか。

山下

2022年4月、男女共同参画担当理事を筆頭に、各事務部門から職員が集められ「学童保育施設等準備室」が設置されました。全員、所属部署の業務を持ちながら、準備室を兼任する形です。何もないところからのスタートですので、コンセプトづくりから始めました。ここで大切にしたのは、子育て中の教職員が安心して研究、業務に専念できる環境を作ることに加えて、子どもをただ預かるのではなく、京都大学の教育・研究と関連付けた体験を提供し、それによって理科離れに歯止めをかけられるような教育プログラムを盛り込むことです。まさしく、京都大学が作るアカデミックな学童保育所です。
具体的には、理事、準備室メンバーのアイデアをまとめた手描きラフを作ることから始めて、それをブラッシュアップし、最終的に総長はじめ役員に説明するプレゼン資料に仕上げていきました。

学童保育施設等準備室

手書きラフ

役員向けプレゼン資料

福利厚生の充実だけではなく、次世代を担う子供たちへの教育に貢献するという意味でも夢が広がりますね。事務職員が中心となって進めてこられたように思いますが、教員とはどのように協力していますか。

住田

準備室とは別に、教員によるタスクフォースも設置されています。男女共同参画担当の理事や理事補を含めた構成で、男女問わず子育て経験のある教員もおり、施設の利用者目線でも検討できるようなメンバーになっています。また、これまでの男女共同参画関係の取組に関わっていただいた先生もいらっしゃいます。ここでは準備室で検討した事柄に関してアドバイスや意見をいただいています。

山下

事務職員同士の連携にも増して教員との信頼関係を大切にしています。学童保育以外にも、ダイバーシティ推進関連のイベントやプロジェクトも担当していますが、企画がスタートする際に、まず、一緒に仕事をする教員の研究室を訪ねることにしています。研究室には必ずたくさんの書籍があり、その背表紙だけで話が弾んだりします。そうして単に仕事の依頼ではなく、人間関係を作っていきます。事務職員は「事務方」とも言われ、教員を下支えする役割もありますが、教員と事務職員はビジネスのパートナーとして、お互いの得意分野をリスペクトし合う関係が大事だと感じています。

理事・理事補との打合せ

部署の垣根を越えたメンバーが集まった学童保育施設等準備室で検討がはじまったのですね。この準備室の人選はどのようにされたのでしょうか。

住田

学童保育所の設置準備の業務は、施設の設計・整備、料金設定や契約締結、運営企画、地域連携など多岐にわたります。そのために、施設、財務、男女共同参画、渉外の担当部署から人選が行われました。もちろん担当業務の知識や経験もあったと思いますが、直近で子育て経験がある職員も選ばれました。役職は部長、課長補佐、掛長、主任まで様々で、私たちを除いて6名です。部署も役職も違いますが、同じ目的のために集まっているメンバーですので、自由に意見を言える雰囲気です。

学童保育施設等準備室メンバーでの打合せ

いいですね。みんなが前向きにゴールに向かう空気は大事ですよね。
複数の部署が集まって一緒に仕事をする上で工夫していることはありますか。

山下

メールや電話ではなく、極力、顔を合わせて話をすることを意識しています。同じ部署内で仕事をする場合とは違い、丁寧な意思疎通と、コンセプトやゴールの確認を頻繁にする必要があるからです。私たちは各部署の調整を行っているので大変ですが、複数部署で協働する際は、そのような舵取り役、調整する役目が必要不可欠だと思っています。

住田

各担当者が持っている色々なカードを自由に出せる環境を大切にしています。遠回りかもしれませんが、色々な意見が出た上で議論・修正しながら企画を進めていくことに非常にやりがいを感じます。

議論しながら企画を進める

遠回りだけど、立場も視点も違うメンバーをうまくまとめていく上では必要なステップということですね。

住田

そのとおりです。最初は最短のスケジュールを組みますが、調整が難しく、やり直しになることも多いです。専門業者さんに丸投げすれば、スケジュール通りに進められる反面、私たちのアイデアは反映しづらくなってしまいます。前例がない企画を妥協せず行っているのでスケジュール通りにいかないのは仕方ない部分もあります。

お話を伺っていて、企画から実現まで非常にやりがいがあり、キラキラしたイメージですが、そうではない地道な仕事もありますか?

住田

新しく制度を作り、企画を立案することも大変ですが、その後それを改善しながら継続していくことも大変です。私たちは人事異動があるので、その継続がスムーズに行えるように細かいところまできちんと気を配ることも必要になってきます。また、私たちは学童保育のみを担当しているわけではく、当然ルーチン業務もあります。調査や補助金の調書関係業務で四苦八苦している状況です。

山下

机で腕を組んであれこれ考えていることも多いので、周りには何もしてないように見えているかも。そういう意味では地味ですね(笑)。また、前例がない業務は、「このまま進んで大丈夫なのか?道を間違っているのではないか?」と不安になることが多いです。ただ、手探りでも粘り強く試行錯誤していくうちに、「これだ!」というタイミングが必ず訪れます。まさに霧が晴れるような感じです。

この仕事を進める上で一番大切にしていることは何ですか。

山下

この仕事の担当になってから、学生に交じってジェンダーをテーマにした講義を受けたり、学童保育所に使う木材を調達するために、京大の研究林に出向いたりしています。このように、事務といっても机上で完結するものばかりではありません。なんといっても京大は多種多様な人とフィールドの宝庫です! ぜひ、たまにはオフィスから外に出て、研究者や学生に会ったり、フィールドに出かけたりして、教育研究の現場で何が行われているのかを実感してほしいと思います。

木材を調達

住田

まずは興味ある事をとことん追求したり、関係者のことを知ろうとしたりすることが重要だと思います。その知識や好奇心が新しい転換になることがあります。実際に使用される情報ではなかったとしても、どんどん視野を広げていくことが大切です。

山下

それと、誰のために仕事をしているのかを意識することが大事だと思います。今回の企画では、子育て中の教職員が大学で思う存分、研究や業務ができる環境を用意できることと、子どもたちがそこで楽しく過ごし、理科が好きになり、将来的に京都大学に関わってくれるかもしれないことを考えると、他部署の業務であってもアイデアを出し合って頑張ろうという気持ちになりますね。

思いやアイデアを気軽に共有できるような関係性は大事ですね。
今後の展望について教えてください。

山下

学童保育所のコンセプトに加えて、他機関の学童保育所や児童館などの視察を行い、そこで得た私たちのアイデアやノウハウを設計事務所のご協力を得て、2次元の図面に落とし込み、その後3次元の建築模型が完成しました。まさに、アイデアがカタチになる瞬間です! 今後工事着工に向けた調整に加えて、運営方法、子どもたちに提供する教育プログラムの検討など、まだまだ課題はありますが、子どもたちがわいわい過ごす風景を想像すると楽しくなります。

児童遊戯施設視察(山形県)

児童館視察(東京都)

設計ラフデザイン

建築模型写真①

建築模型写真②

住田

私たちが思い描いた以上の、遊び心がある、開放感あふれる空間が模型で表現されていたので、すごく感動しました。ただ、同時に、実際の運営を考えると、開放感の確保と防犯という相容れない条件を調整していかないといけないという新たな課題にぶつかることにもなりました。現在はその課題解決に向けて挑戦中です!

とてもわくわくするお話をありがとうございました。
最後に、京都大学職員を目指す方へメッセージをお願いします。

住田

社会貢献や社会へ良い影響を与えたいといった志も大事ですが、まずは自分の軸を定めることにも目を向けていただきたいと考えています。
自分の好きなことを突き詰めて、拡大して、常識にとらわれない自由な発想を生み出すことも重要視してほしいです。

山下

仕事に対する考え方は人それぞれですが、自分のコミュニティに愛着がないと良い仕事ができないと私は思います。この大学が好きで、5年後、10年後の京都大学をどのようにしたいか、大学をもっと良くして社会の役に立ちたい、といった気持ちを持ってほしいです。一方で、このように仕事にこだわりを持つことは、しばしば遠回りをして苦労もします。どんな仕事もそつなくこなすスタイルとは違うかもしれませんが、その回り道が楽しいと感じてくれる人が少しでも増えてくれば、もっと京大が魅力のある職場になると思います。

追記:2023年12月9日(土)open!!詳しくはこちら